平成30年 高松興正寺別院 夏まいり

7月27日(金)午前10時より、高松興正寺別院の夏まいりが勤修されました。
今年は連日、最高気温が35度を超える記録的猛暑のなかでの法要となりましたが、70人近くの方がお参りくださいました。夏まいりは、朝座のみの法要になります。

午前10時より、『正信偈』(中拍子)をお参りさんと声を合わせてお勤めしました。
副輪番 松尾修淨氏の句頭で、この日は11名の内陣出勤がありました。

お勤めの後は、この7月より輪番に就任した柴田好政氏から挨拶があり、その後、休憩に入りました。
堂内は冷房が入れられており、休憩時間には冷たい飲み物やお菓子が振る舞われ、お参りさんの体調にも配慮されていました。

休憩の後は、西讃教区教務所長 本山布教使 観音寺市 一心寺住職 香川正修先生による法話がありました。

香川先生は、「無慚無愧のこの身にて まことのこころはなけれども 弥陀の回向の御名なれば 功徳は十方にみちたまう」という親鸞聖人ご和讃と、「そんかとくか 人間のものさし うそかまことか 佛さまのものさし」という相田みつをさんの詩を紹介されて、そのことを二つのエピソードを交えてお話してくださいました。

一つ目のエピソードは、蚕を三匹もらってきた小学三年生の男の子のお話です。男の子は蚕の世話をすぐに飽きてしまい、お父さんが蚕のエサになる桑の葉を取ってきたり、お姉ちゃんが蚕を飼う容器を掃除していたそうです。ところが、蚕が繭を作り出すと面白くなってきたのか、男の子が急に「僕のだ。触るな!」とお姉ちゃんを怒鳴りつけ、姉弟喧嘩になったという出来事です。

確かに蚕をもらってきたのは男の子ですが、実際にはお父さんやお姉ちゃんが蚕の世話にかかわっているのです。この他にも蚕のエサになる桑の葉、蚕を飼う容器が関係していますし、それ以前には、この家族が住むお家がなければ蚕は飼えません。お家を建てるには材木が必要ですし、大工さんの力も必要です。このように考えますと、たくさんの関係が広がっていきます。そのことに気づいて欲しいお父さんは、男の子に「発見ノート」を渡し、自分の周りにどれだけのものが関係しているかを書かせたそうです。そのことを通して、男の子は「自分のいのちは、あらゆるご縁をいただいて成り立っている」という、まことに気づかされたそうです。

この出来事は決して他人事ではなく、私たちもこの男の子のように、あらゆるお陰さまを忘れて、自分のことしか目に入らなくなってはいないでしょうか。このように、無慚無愧の私たちだからこそ、まことの声(お念仏)によって、その都度、まことに気づいていくことが大切なのでありましょう。

二つ目のエピソードは、元フジテレビのアナウンサーで退社後に僧侶となられた結城思聞さんが、アナウンサー時代に『小川宏ショー』という番組に携わっておられたときのお話です。「希望の詩」という、一般から投稿された詩に曲をつけてプロの歌手が歌うというコーナーに、『僕が生まれてごめんなさい』という詩が投稿されたのです。この詩は重度の脳性マヒを患った”やっちゃん”という少年の詩でした。やっちゃんは、生まれながら言葉も話せず、手足も不自由で、いつもお母さんの助けが必要でした。そんなやっちゃんがお母さんを気遣って、「ごめんなさいね、おかあさん」「ぼくさえ生まれなかったら」と、自分を責めたのです。

これに対してお母さんは、やっちゃんに、「わたしの息子よ、ゆるしてね」「歩きたかろうね」「あなたのすがたを見守って お母さんは生きていく」「脳性マヒのわが息子 そこにあなたがいるかぎり」と、お返事の詩を書かれたそうです。

やっちゃんはお母さんのまことの心を知り、すぐにお返事を書きました。「ありがとう、おかあさん」「おかあさんがいるかぎり ぼくは生きていくのです 脳性マヒを生きていく」「やさしさこそが美しい 悲しさこそが美しい そんな人の生き方を 教えてくれたおかあさん。 おかあさん あなたがそこにいるかぎり」と。

やっちゃんはそれから二ヶ月後に十五歳で亡くなりますが、感謝の心を持って、とても力強いいのちを生きたのです。世間のものさしでは、言葉も話せず、手足が動かないやっちゃんは不幸と思われるかもしれませんが、お母さんのまことの心が届いたやっちゃんは、人を労わり、笑みをこぼし、「ありがとう」と言って、与えられたいのちをまっとうしました。仏さまのものさしによりますと、やっちゃんは幸せに溢れていたのではないでしょうか。

香川先生は、とても分かりやすい語り口調で、お参りさんもこれらのエピソードに深く頷かれていた様子でした。

最後に、全員で『恩徳讃』を唱和して法要を終えました。
お参りさんには、帰りにお土産として、パンとお茶が配られました。

内陣準備に式務から5人、外陣・参拝席の準備から当日のお手伝い、そして片付けまで、教化参拝から6人のご協力を賜りました。この他、たくさんの方々のご協力を賜り、夏まいりを無事に勤めることができました。
この法要に携わったすべての方に対して、厚く御礼を申し上げます。

また、この日は本堂入口に平成30年7月豪雨の義捐金箱も設置されました。この取り組みは、今月行われた仏教婦人会の総会にて、会員の皆様から自発的に声が上がったもので、この取り組みに別院も協力させていただきました。これまでにお預かりした義捐金は、百十四銀行を通して、平成30年7月31日付で日本赤十字社香川県支部に入金いたしました。ご支援をいただいた皆様にも謹んで感謝を申し上げます。